PCUPdate記事「遅かったのか、それとも間に合ったのか?QuarkXPress6出荷開始」
クォークジャパン「QuarkXPress6日本語版早期購入割引キャンペーン」
DTP業界の隅っこに生息する者から言わせてもらえば、明らかに「遅かった」。しかも価格体系を見る限り、クォークジャパンにその自覚と反省の気持ちは全くないようである。
多くのクリエイターやDTPオペレーターが求めていたのは「QuarkXPress3.3 Carbon」だと思う。1枚モノのチラシやポスターならIllustrator8で作れる。ちょっと凝った画像処理ならPhotoshopやIllustratorで作ってEPS保存してQuarkに貼り付ければいい。まず必要なことは「OS Xネイティブ環境で昔作ったファイルが開けて、編集・出力できること」。ならばQuark3.3に「ヒラギノ2万字対応」「アンドゥ機能」「半透明網かけ」「貼り付け画像プレビューの高画質化」「.psd画像貼り付け対応」「文字フチつけ機能の標準装備」「ノンブル打ち機能の操作簡略化」「ルビ打ち機能の充実」「縦書きでの数字横倒し機能の充実」「PDF書き出し機能の標準化」を追加した程度(って結構多いが)で十分。で、サクサク動いて(InDesignは重いという話をよく見聞きするので)価格が安くて(InDesign×0.7〜8程度)ハードウェアキー不要(これはQuark6でネットでのアクティベートになってますね)、そういう“バリューアプリケーション”の方向にいくべきだったのではないか。確かに一気に新規購入価格が10万円割るようでは20ン万円出してQuark4.1買ったような人からは顰蹙買うのは間違いないんだが、InDesignに逃げられるよりはマシでしょう。
自分はOS Xの安定性をプライベートで実感してるし、会社でPowerMacG4のOS9環境での不安定さには辟易しているから、もし会社で然るべき部門の責任者ならOS X環境への移行を提案するだろう。しかし、完成したモノに変化が殆どない投資ができるような時代ではない。雑誌でのベータ版レビューなども見る限り、「OS Xネイティブになった(OS9じゃ動かない)」「アンドゥができるようになった」「レイヤー機能がついた」程度のQuark6は「(最高30万円弱の)投資するに値する」アプリケーションではない。そのことにクォークジャパンが気付くのはいつだろう。ま、その時は“Quark日本撤退”だろうけど。
実は、首都圏に戻って最初に就いた仕事が「クリエーター・広告業界・専門学校向けのパソコン(主にMac)販売」だった。わずか3カ月(今年1月〜3月)とはいえ、その間PowerMacG5が1台も売れなかったことに驚いた(だからって一度も見たことがなかったってのもヒドい話だが。デモ用に1台買っとくとか考えなかったのかね)。大手出版社から個人事業主まで皆さん揃って“OS9で起動するPowerMacG4”を欲したのである。手持ちのアプリケーション(主にIllustrator8、Photoshop5.5、QuarkXPress3.3)を新しいマシンで動かしたいという思いがお客さんから伝わってきた。「OS X環境が生み出す新しいワークフローとその効果」なんて雑誌の記事は彼らには届かない(実際、彼らの多くは読んでない)。そのような現状をもっと多くの人が知らなければならない。クォークジャパンだけじゃない。アドビだって、マクロメディアだって。アップルだって。
余談だが、アップルのサイトで京極夏彦氏のOS X+InDesignによるDTPワークフローについて改めて取り上げているので紹介したい。何しろ「作家が最初からDTPアプリケーションに本文打ち込んじゃってる」訳であり、去年この話を知った時「書く」と「刷る」の中間で仕事をしている自分にとっては衝撃と言っても大袈裟ではなかった。京極氏の“文字の見せ方”に対するこだわり(漢字へのルビ、改行・改頁の位置決め等)があっての話ではあるのだが。
一方で2ページ目での発言を見ると、出版社や印刷会社にとってはそれぞれの本来の仕事について改めて考え直す機会になったようでもある。特に「編集者」にとっては、本来の業務である「出版物全体のディレクション」に集中できるという効果が大きいようだ。ともすれば(自分の仕事がなくなる?)という感覚に陥りがちだが、時間に余裕が生まれることで本来の仕事をスキルアップするチャンスが生まれると考えればよいということ、だ。新たな厳しさも感じたが、オペレータから進行管理へ仕事を変わった自分にとっては気持ちを引き締められる記事だった。
どの機会をもって仕組みを変えていくのか。どんな仕事でも問題になることだろうが、DTPという分野においては明らかにここ数年がその「機会」である。自分の盛岡時代のように(印刷会社がInDesignだのOpenTypeだの入れてくんないと変えようにも変えらんないよ)てのも正論だし、結果としての刷版(印刷物)に大差がないのに新しいシステムを導入する(予算を執行する)ことに対する抵抗感も強いと思う。DTPという仕事分野さえ雲行きが怪しくなりつつあっては尚更である。ただ、どっかで大きく変えなきゃいけなくなってることにはみんな気付いてる。これは間違いない。そしてその中心にQuarkXPressは存在しない。あくまでも「過去の遺産を再利用する時に使うアプリケーション」としての存在意義しか、ない。
あと、特に会社の予算執行担当者は“フィーリングの向上による恩恵”について真剣に考えるべきだろう。(少なくともOS10.2以降が標準インストールされてる機種における)OS Xの安定性はOS9の比ではないと言って間違いない。InDesignはオペレートしたことがないのでうかつなことは言えないが「慣れさえすればむしろQuarkより快適である」という感想が一般的だ。京極氏だって発言を見る限りではInDesignだからこういうことを思いつき実行に移したようだし、考えてみればBlogもそうだろう。分かる人にはなんてことのない「FTPにアップロードして云々」という工程を簡略化することが、どれだけ作者の心持ちを変えることか。こういう感覚を全ての人が共有できれば、システムなんてあっけなく変わるのかもしれない。
※同じようにQuarkXPress6について書いてあるBlogでフォントのことについて触れていて、すっかり忘れていたことに気付きました。敬意を表してトラックバックを貼りました。確かに業務用フォントの値段ってバカになりませんからね。OCFとCIDとOpenTypeがどう違うのか、正直なところよく分からないまま仕事してましたから。反省しきりです。